五月雨を詠んだ和歌を、三代集の夏部から古今集・後撰集・拾遺集の順で挙げてみます。
〈五月雨に物思ひをれば時鳥 夜深く鳴きていづちゆくらむ〉
〈五月雨の続ける年のながめには 物思ひあへる我ぞわびしき〉
〈時鳥をちかへり鳴けうなゐ子が 打ち垂れ髪の五月雨の空〉
一首目は、五月雨の降り続く中で物思いをして過ごしてきた夜更けに、時鳥が鋭い声をあげて飛び去ったというもの。二首目は、五月に閏月(うるうづき)があった時の歌で、「ながめ」が長雨と眺めの掛詞となっています。この眺めは眺望ではなく、思いに耽ってぼんやり見ている意です。二ヶ月も五月雨が続いている年の長雨での虚ろな思いでまなざしを向けても、物思いが尽きない自分が悲しいよ、というもの。三首目は二句切れの倒置で、三・四句目は幼児の髪を垂らしてうなじでまとめた髪型を言い、その髪の乱れのような五月雨(さ・みだれ)の空で、時鳥に繰り返し鳴けと命じたものです。
これらでの五月雨の詠み方をみると、時鳥と物思いが一緒に詠まれることが多いようです。時鳥の鳴き方が、深夜に悲痛な叫びを一声挙げるというイメージであることは、以前の記事で記しましたが、その時鳥には作者の心の投影が感じられ、背景の五月雨は、闇の中で乱れ降る情景を想像させます。
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