住宅で火災が起きた際に煙や熱を感知し、警報音や音声で火災の発生を知らせる住宅用火災警報器。地震によって火災が起きたときにいち早く避難するためにも、重要な設備といえる。
この住宅用火災警報器に関して、総務省消防庁は「設置から10年以上の場合は交換しましょう」と推奨している。
なぜ、10年経ったら交換したほうがいいのか。交換しないとどうなってしまうのか。都市防災を専門とする東京大学教授の廣井悠さんに、地震火災に対する備えについて聞いた。
設置で死者数・損害額が半減
新築住宅における住宅用火災警報器の設置は2006年6月から義務化となっており、既存住宅に関しても2011年5月までに設置することと定められていた。つまり、現在は法的には、すべての住宅において設置が義務とされている。
そもそも、なぜ義務化となったのだろうか。
「素早い火災覚知(火災を発見し、認知すること)は、とても重要です。なぜかというと、火災は発見が早ければ早いほど対応がラクになり、遅くなるほど手に負えなくなるからです」
一般人が消火器で消せるのは、自分と同じ背丈程度の炎といわれている。炎が天井に到達するレベルになると消火器での対処は難しくなるため、早い段階での覚知が重要となり、住宅用火災警報器が大きな意味を成す。
総務省消防庁はホームページで、2020年から2023年までの4年間の失火を原因とした住宅火災の火災報告をもとに分析したデータを公表している。
このデータでは、住宅用火災警報器を設置している場合は設置していない場合に比べて死者数、損害額が半減、損傷床面積は6割減になっているという結果が出ている。
「住宅用火災警報器には、死亡リスクや損失の拡大リスクを減少させる効果があるということがわかります。一方で、このデータが出ているということは、まだ住宅用火災警報器が設置されていない住宅もあるということです」
自治体によって、全室での設置を推奨しているところもあれば、「廊下・台所・寝室に設置すれば問題ない」としているところもあるが、廣井さんは「全室設置が望ましい」と話す。
全室設置は地震の際にも有効だという。
「例えば地震によって家具が転倒してケーブルが破断し、出火するケースもあるため、すべての部屋に火災のリスクがあります。いち早く火災に気づくためにも、できれば住宅内のあらゆる場所に設置してほしいですね」
点検のやり方は?
冒頭でも触れたように、住宅用火災警報器の寿命は10年といわれている。2011年の既存住宅の義務化のタイミングで設置した場合は既に10年を超えていることになるため、まずは点検してみよう。
住宅用火災警報器についているボタンを押したり、ひもを引いたりした際に、警報音や音声が鳴らないようであれば、電池切れの可能性がある。
「点検時に音が鳴ったとしても、油断はできません。警報器は精密機械なので、10年も経っていれば壊れている可能性が高いといえます。そのため、総務省消防庁も交換を推奨しています」
音が鳴らなかった場合も、電池を交換すれば再び作動するとは限らないそう。どちらにしても、10年以上経過していたら、買い替えを検討するタイミングといえる。
総務省消防庁では年2回の点検を推奨しており、作動しない場合は10年経過していなくても交換したほうがいいとしている。
「住宅用火災警報器は検知方法によって『煙式』『熱式』などのタイプがありますが、一般的には『煙式』が検知性能が高いといわれています。交換する際の参考にしてください」
ちなみに、マンションなどで定期的に設備点検が行われる場合は、住宅用火災警報器ではなくオフィスビルや商業施設などにも設置される自動火災報知設備であり、管理者側に点検の義務があるため、個人での点検や交換は必要ないとのこと。
まずは設置個所を把握しよう
廣井さんは「住宅用火災警報器が設置されていることを認識することが、火災対策の第一歩」と話す。
「設置が義務化されてから住宅を建てた方の多くは、住宅用火災警報器が設置されていることを知らないかもしれません。まずは設置されている場所を把握して点検し、命を守ってくれるものがあることを認識することが重要です」
住宅用火災警報器がなかったり、ついていない部屋があったりする場合は、設置に動き出すことが重要だ。
「先述したように、火災覚知が早ければ早いほど、被害の拡大を食い止めやすくなります。火災発生に気づいたら、すぐに周囲に伝えることも重要。複数人で消火活動ができるようになるかもしれませんし、避難を促すことにもつながります。とにかく火災を早く認知することが重要です」
住宅用火災警報器の設置や点検、交換を徹底することで、万が一の火災にもいち早く気づくことができるだろう。自分や家族、近所の人の命や財産を守るためにも重要な心がけだ。
廣井悠(ひろい・ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター教授。専門は都市防災・都市計画。内閣府「首都直下地震帰宅困難者等対策検討委員会」座長、東京都「今後の帰宅困難者対策に関する検討会議」座長、内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議」専門委員、内閣府「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」委員、などを歴任。特に大都市の防災対策について、理論・実践ともに積極的に関わる。
取材・文=有竹亮介
