2024年元日に発生した能登半島地震では、石川・富山・新潟・福井の各県で液状化被害が発生した。繰り返す特性のある液状化のリスクを低減するには、街区単位での抜本的な土地改良が有効だ。新潟市も対策の実施方針を示しているが、2025年は市が求める住民負担と地権者の100%同意という2大要件をめぐり、市と住民の意見は平行線をたどった。2026年、安心と安全を求める両者の思いはどこへ向かうのか。
“1坪あたり5250円”新潟市の事業実施要件
新潟市は、能登半島地震で液状化被害を受けたエリアのうち、西区と江南区の計250ヘクタールで国の施策を使った街区単位の対策を実施する方針だ。
25年8月と10月には住民に向けた大規模な説明会を開催したが、そうした場で浮き彫りになったのは新潟市と被災住民との意見の不一致だ。
事業に必要な工事費は、最終的にその97.5%を国が、2.5%を新潟市が支出する。
一方、施設の維持管理費について、新潟市は“市と住民で折半する”方針で、その金額は1坪あたり5250円(上限無し)。さらには地権者全員の同意を求めている。
25年10月には負担軽減策として、年金受給者などを想定した支払い困難世帯に支払いを求めない新方針を打ち出した。
中原八一市長は「これが市として出来る最大限」と話し、住民から事業内容を理解してもらえるよう説明を尽くすとした。
説明を尽くすために…動画や実写を採用した新資料
事業実施について住民から理解を得るために新潟市が25年11月に始めたのは、自治会単位の小規模な説明会だ。
市の液状化対策室は、動画を活用するなど分かりやすい説明の仕方を模索している。
直近の説明会では、地下水位低下工法を施した土地と対策していない土地を比較した動画を用意。
街区液状化対策室の大籏裕一郎さんは、「これまでは平面的な説明が多かったが、液状化現象は地下水が影響するものであり、地下水位を下げる工法が有効であると感覚的に知っていただけると良い」と、資料改善の狙いを語る。
そのほか、対策を実施する“街区”と呼ばれる公道で囲まれたエリアを示すために、航空写真と地図を織り交ぜた資料も用意した。
街区液状化対策室の坂井潤市室長は「試行錯誤と工夫を重ねながら丁寧な説明を繰り返し行っていくことで、少しでも前に進めるように努めたい」と話し、住民の必要に応じて何度でも説明に赴く考えだ。
住民負担を求める理由は“公平性”だけなのか?
こうして、新潟市が住民への説明を尽くしながら事業を前進させたいのに対し、住民の間には事業の実施要件に対する懸念が根強く残っていた。
江南区天野で25年11月に開かれた自治会単位の説明会でも、「住民負担はゼロ、地権者の同意は8割でお願いしたい」という声が響いた。
そもそも、新潟市が住民負担を求める根拠としてきたもの、それは“公平性”だ。
今回の対策検討範囲以外にも市内には液状化しやすいエリアが多く存在すること、個人で対策をした人もいることなどを踏まえている。
中原市長は25年、再三にわたり“公平性”という言葉で住民負担への理解を求めてきた。9月市議会ではこうも述べている。
「財源が不足するという理由で住民負担を求めるのではなく、事業を実施した受益者と(今回の事業で)対策できない方との公平性の観点から負担をいただくべきというのが基本的な考え方になる」
財源不足が理由ではないことに言及した。
しかし、25年10月には、被災面積と必要経費について他の自治体と比較する場面があった。
復旧復興推進本部会議でのことである。中原市長は、新潟市と富山市における事業対象面積と必要な維持管理費の違いについて質問。
渡辺和則財務部長が「富山市は対象面積が約4ヘクタール、年間の維持管理費が全域実施で約480万円。新潟市は対象面積が250ヘクタール、年間の維持管理費は全域実施で約1億7500万円程度になると見込んでいる」と回答。
すべてのエリアで対策工事をした場合、富山市に比べ新潟市の維持管理費が多額に及ぶと確認された。
「住民負担を求める理由は財政不足ではない」としていたにも関わらず、こうした確認をオープンな会議で行った意図は何か。
中原市長は「富山市と新潟市とでは、あまりに費用が違いすぎるという点を少し浮き彫りにさせていただいた」と述べている。
また、同会議では、新潟市で復興基金を設立し、液状化対策に対応することは財源的に難しいことも確認された。
「住民負担ゼロ」富山の場合
復旧復興推進本部会議で言及された富山市を含む5つの市で液状化対策が検討されているのが富山県だ。
維持管理費は富山市で480万円、高岡市(対象面積32ヘクタール)で2600万円になると試算されている(射水市、氷見市、滑川市は維持管理費の試算額を非公表)。
住民負担のあり方は、富山県でも議論されてきたが、25年10月、富山県の各市は共通して、維持管理費について住民負担を求めないことを発表した。
どのようにして「住民負担ゼロ」を成し得たのか?
富山県では、施設のメンテナンス費用を県と各市が折半。富山県は、その費用を“県の基金で得られる利益収入”から賄う方針だ。
さらに、その他にかかる電気代などは各市が支出することを決定。住民が費用を負担することはなくなった。
「住民負担を求めるのは新潟市のみ」市議会も追及
富山県5市と新潟市との費用負担の違いについては、12月市議会でも議論に。
日本共産党新潟市議会議員団の武田勝利議員が「地下水位低下工法で住民負担を求めるのは全国で新潟市だけ。富山県は県が支援して住民負担がゼロになった。県に支援を働きかけることは大事だと思う」と問うと、新潟市の栁田芳広技監は、「ご指摘のあった富山県の情報も含め双方で情報を共有しながら、私どもの意向は県にお伝えさせていただいている」と答弁した。
「県への働きかけは行っている」と明かしたものの、新潟市は12月補正予算案で“街区単位の液状化対策の試験施工費”として2億8000万円を計上しており、明確な反対意見のないエリアから市の計画通り実証実験を行う方針だ。
事業要件で「立ち止まることはない」たどった平行線は交わらず
この事業について中原市長は、住民負担・地権者全員同意という要件を示した25年9月、「どうしても事業が実施できないという声があれば、立ち止まり検討する必要がある」とも述べている。
この点について中原市長は25年12月の定例会見で、「市が想定してこなかったような問題が起これば、やはり検討していく必要があると思う。その“市が想定しなかった問題”とは『今の無料にしてほしい』というような話を除いて、ということになる」と強調。
新潟市と住民が、費用負担と地権者の全員同意という実施要件を前にたどった平行線は交わることはなく、中原市長は改めてこの議論に終止符を打った形だ。
「永久的にここに住む」住民の思いの行方は
25年11月の江南区の説明会で、住民から聞かれた言葉がある。
「市の説明を前にも聞いた。少しずつ知識が上積みされて内容的には分かるようになっている。やはり、ここに永久的に住みますので、少しでもいい形に町がなればいいと思う」
「永久的にここに住む」その思いに応える安心安全の行方は、2026年に持ち越される。
一方で、“公平性”という言葉で費用負担を求めた新潟市の説明は、被災住民の理解に資するものだったのだろうか。
ある住民からは「私たちは被災している。公平性という言葉は、頭では理解できても気持ちでは受け入れにくい」と語り、別の住民は「市内の誰にでも起こりうる被害だからこそ、不公平感は生まれないのではないか」とつぶやいた。
計250ヘクタールを検討対象とする街区液状化対策は、実際にどれほどのエリアで実施に至るのか。
市と住民の信頼の先にのみ、その成果は現れる。
