御神渡り|諏訪湖の伝説と科学的な仕組み、近年の出現傾向を解説
とくに長野県の諏訪湖では、580年以上にわたって御神渡りの記録が続けられ、今も伝統的な神事が受け継がれています。
しかし近年、諏訪湖では御神渡りが現れない年が続き、その神秘的な光景は、これまで以上に貴重なものとなっています。
本記事では、御神渡りとは何かという基本から、諏訪湖に残る伝説と信仰、科学的な仕組み、見られなくなっている理由、そして実際に見に行く際のポイントまで、わかりやすく解説します。
御神渡りとは?湖が生み出す神秘の自然現象
諏訪湖の御神渡り
日本では、とくに諏訪湖(長野県)の御神渡りが有名です。また、屈斜路湖(北海道)も、ときには高さ2m・長さ10kmにもおよぶ大規模な御神渡りが見られることで知られています。その他、山中湖(山梨県)や松原湖(長野県)などでも、小規模ですがまれに見られることがあるようです。
その中でも、諏訪湖の御神渡りが有名なのは、大昔からその現象と伝説・伝統が深く関わり合ってきたことにあります。次で詳しく見ていきましょう。
諏訪湖に伝わる御神渡りの伝説|580年以上続く記録と神事
御神渡りの観測や神事を執り行う諏訪市の八剱神社
諏訪の地では、「御神渡り」は、諏訪大社上社の男神・建御名方神(タケミナカタノカミ)が下社の女神・八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)のもとへ通った道筋であると言い伝えられてきました。
また、その出現の記録が、室町時代の1443年から現在に至るまでの580年以上にわたって、ほぼ途切れることなく続けられてきました。これほど長期間にわたる自然観測が行われてきた例は、世界的に見ても非常に珍しいものです。
御神渡りの記録や、それにまつわる神事を行っているのは、諏訪市にある八剱(やつるぎ)神社です。
毎年、小寒(1月5日頃)から節分(2月3日頃)の約1ヶ月間、宮司と氏子総代らが、湖面を毎日観察します。
そして御神渡りが出現すると、「拝観式」が執り行われます。拝観式では、御神渡りの確認・認定・お祓いなどが行われます。そして氷の割れ目の様子から、その年の農作物の出来や世の中の吉凶などを占います。
なお、氷の筋が1本では御神渡りとして認定されません。最初に南岸から北岸にかけてできたものを「一の御渡り」、その後、同方向に出現したものを「二の御渡り」、それらに直交するものを「佐久の御渡り」と呼びます。そして、この3本の筋が確認されて、はじめて御神渡りとして認定されます。
この神事は、諏訪市の無形民俗文化財にも指定されています。
科学で解説|御神渡りの仕組み
御神渡りの仕組み
その正体は、氷が気温が低いと収縮し、気温が高いと膨張する性質が関係していて、温度差によって縮んで伸びてを繰り返すことで発生します。
仕組みについて、もう少し詳しく説明すると、以下のようになります。
①厳しい寒さが続くと、湖が全面結氷して氷が厚みを増していきます。
②夜間から早朝にかけて冷え込みが強まると、氷が縮んで割れます。
③割れ目に湖水が入り込み、新たに薄い氷が張ります。
④日中、気温が上がって氷が膨張すると、薄い氷が押し上げられます。
諏訪湖の場合、御神渡りができるには、-10℃前後の日が1週間ほど続く必要があります。残念ながら2、3日低温になっただけでは、氷の厚みがたらず、なかなか御神渡りの出現には至りません。
一時的な寒さではなく、長く厳しい寒さが、御神渡りを生み出すのです。
諏訪湖の御神渡りが年々減少傾向に?その背景は
年代別の御神渡り出現年数(右)と諏訪の1月の平均最低気温の長期変化(左)
2000年以降に御神渡りが出現したのは、2003年・2004年・2006年・2008年・2012年・2013年・2018年のみで、2019年以降、しばらく出現しない年が続いています。2025年は、湖面の氷に小さな筋ができ、7年ぶりの御神渡りが期待されたものの、残念ながら出現には至りませんでした。
諏訪湖では、御神渡りが出現しない年を「明けの海」といいますが、ここまで長い期間「明けの海」が続くのは、600年近い記録の中で初めてのことだそうです。
上の図(右)は、1900年代以降、10年ごとの御神渡り発生年数の表です。全体的に減少傾向になっていて、とくに1990年代から大きく減っていることがわかります。また、諏訪の気温データ(左図)について、観測開始以降の1945年以降でみると、最低気温は年々上昇傾向で、とくに1980年代後半から顕著になっています。
こうした気温上昇には、地球温暖化や都市化によるヒートアイランドといった、私たち人間の活動が影響を及ぼしていると考えられています。
以前は毎年のように見られていた諏訪湖の御神渡りは、現代では非常に珍しい現象になってしまっているのです。
御神渡りを見に行く際のポイントと注意点
御神渡りを見に行く時のポイント・注意点
ここでは、主に諏訪湖の御神渡りについて、見に行く際のポイントや注意点をお伝えします。
<御神渡りを見に行く際のポイント(準備)>
御神渡りは、1日2日の低温で出現するようなものではなく、全面結氷が数日続いてから出現します。このため、事前にしっかりと情報収集してからの観賞に臨みましょう。
ぜひ、最低気温が-10℃以下の日がしばらく続きそうなことや、全面結氷のニュースなどをチェックしてみてください。
また、ライブカメラの映像などもあわせて参考になさってください。
・諏訪湖周辺のライブカメラ(長野県)
・諏訪市観光協会のライブカメラ(毎年シーズンに入る頃になると、ライブカメラ画像を掲載)
<御神渡りを見に行く際の注意点>
・防寒対策を万全に
以前ほど冷え込みが強くないとはいえ、それでも、諏訪の冬はとても寒いです。標高や地形の影響もあって、県内の長野市や松本市よりも気温が低く、長野県民でも「諏訪の冬はとにかく寒い」というほどです。
御神渡りを見に行かれる際は、寒さ対策を万全になさってください。
・氷の上には絶対に立ち入らない
危ないですから、絶対に氷には乗らないようにしましょう。氷の厚さにはムラがあり、薄いところもあるため、割れて落水するおそれがあります。また、湖岸に打ち寄せられたものであっても危険です。安全な場所から観賞なさってください。
・車は、必ず冬用タイヤの装着を。路上駐車もNG
諏訪はそこまで積雪が多い場所ではありませんが、湿った路面が凍結したり、周辺の峠道では雪が降っていることもあります。車で来る際には、必ず冬用タイヤの装着をしましょう。
また、路上駐車をしての観賞は周囲の方に迷惑となります。必ず周辺の駐車場をご利用ください。
寒冷地対策をしっかりした上で、マナーを守って楽しみましょう。

