有馬記念の次は年末最後の大決戦【東京大賞典】 関東の天気との関係は? 気象予報士目線で徹底解剖
年末最後の大一番「東京大賞典」とは
有馬記念と東京大賞典は、どちらも「年末を締めくくるレース」として語られることがありますが、実は大きく異なります。有馬記念が中央競馬の芝の頂点を決めるレースであるのに対し、東京大賞典は地方競馬を代表するダートの最高峰です。芝とダート、中央と地方…と、舞台は違ってもその年を象徴する一戦として、多くの競馬ファンにとって特別な存在であることに変わりはありません。
また東京大賞典に合わせて大井競馬場ではイベントも行われているため、現地に足を運ぶ人たちも多く、競馬ファンのみならず、カップルやお子様連れのファミリーなど、年末の競馬場ならではの賑わいが広がります。
冬の関東らしい天気と東京大賞典の舞台
大井競馬場は東京都品川区の東京湾に近い沿岸部に位置しており、関東の冬の天気の特徴をより強く感じやすい場所です。内陸の競馬場と比べると風が通りやすく、同じ気温でも体感温度が低く感じられることがあります。
この時期に吹く北よりの風は、シベリア付近の高気圧から流れ出す冷たい空気によるもので、晴天時でも体感温度を下げる大きな要因となります。周囲に遮るものが少ない大井競馬場では、その影響がよりはっきりと感じられます。こうした風がレースの勝敗を直接左右することは多くはありませんが、年末の東京大賞典らしい引き締まった空気感をつくる重要な要素のひとつとなっています。
東京大賞典の過去10年の天気を見てみると、過去10年の開催日はすべて晴天のもとで行われており、年末の冷たい澄んだ空気の青空の下で迎えるレースとして多くの人の記憶に残っています。
一方で、関東の冬の天気にはもうひとつ注意すべき天気のパターンがあります。それが本州の南岸を低気圧が通過する「南岸低気圧」です。南岸低気圧が発達しながら通過すると、普段は晴れやすい関東も天気が崩れ、冷たい雨や条件が揃えば雪となることもあります。
東京大賞典の歴史の中で、その代表的な例が2004年です。この年は南岸低気圧の影響で、関東では内陸を中心に雪が降り、東京都心では日中はみぞれから雪に変わり、初雪を観測しました。大井競馬場でも雪が舞う中でレースが行われました。沿岸部に位置する大井競馬場は雪になりにくい場所ですが、この時は低気圧の発達と寒気の流れ込みが重なり、年末としては異例の天候になりました。このときのアジュディミツオーの力強い走りは冬の厳しい天気とともに、今も多くの競馬ファンの記憶に残っています。
冬のダートと大井競馬場の特徴
ただ、冬のダートは、一見乾いて見えていても砂の奥には水分が残りやすく、表面と地中で乾き方が異なります。そのため、踏み込みはしやすいのに、蹴り出すときに滑りやすい状態になりやすく、力のいる馬場になります。また気温が下がると砂が凍り付き、転倒などの危険が増すため、凍結防止剤をまかれることがあります。
凍結防止剤は主に早朝の気温が氷点下近くまで下がる予報の時に散布され、砂が凍らないようにして安全性を確保する役割を持ちます。ただ、その影響で砂の締まり方が通常と変わるため、レースにも影響します。
実際、2016年と2019年の東京の最低気温は、2016年12月29日は0.9℃、2019年12月29日は2.2℃でした。前日からも雨や雪が降っていないのに馬場状態が「やや重」「重馬場」だったのは、凍結防止剤の影響だったのではないかと思われます。冬の大井競馬場では、天気の変化と馬場管理が密接にかかわっていることが分かります。
冬の空の下で迎える、東京大賞典を楽しむために
現地で観戦する場合は、「夕方の冷え込み」と「風」への備えがポイントです。風を通しにくい上着やコート、首元を覆うマフラーやネックウォーマー、手袋など手先を冷やさない工夫、長時間立つことも考えて足元の防寒などをすると良いでしょう。
特にスタンド周辺は風が抜けやすく、場所によっては体感が大きく変わることもあります。重ね着をして、状況に応じて調整できる服装が安心です。
また天気によっては南岸低気圧の影響で雨や雪がまじる可能性もゼロではありません。最新の天気予報を確認しながら、その年の空模様に合わせた準備を心掛けると東京大賞典をより快適に楽しむことができるでしょう。空気が澄む冬の大井競馬場で、今年はどんなドラマが生まれるのでしょうか。当日の天気にも注目しながら、競馬の一年を締めくくる一戦を楽しんでみてください。
